地球温暖化への配慮、CO2増加に伴う地球温暖化への対策として「省エネ」の必要性は、1990年代から盛んに叫ばれてきましたが、住宅業界は今、大きな局面を迎えています。今年10月1日には、改正省エネ法が施行され、2020年には適合義務化が予定されています。家を建てる時に、自分の家の省エネ性能やエネルギーについて、検討するのが当たり前の時代がやってきたのです。
長野県では全国に先駆けて、県独自の制度を導入し、住宅の省エネ性能や自然エネルギーに対する意識を高めようとしています。住宅によるCO2削減の取り組みや、これからの家づくりを考える上で大切なポイントを、県に伺いました。
今回の省エネ基準改正は、「エネルギーの使用の合理化に関する法(省エネ法)」に基づくもので、建物外皮の断熱性能を指標とした「次世代省エネ基準」から一歩進んで、建物全体でエネルギー消費量を減らすというものです。これにともない、長野県ではより省エネ性能の高い建築物を普及させるため、平成26年4月から、省エネと自然エネの新しい制度が始まります。これは、県内で建物を新築する建築主に、住宅の省エネ・環境性能を把握し、初期投資とランニングコストを考慮して、省エネ・環境性能や自然エネ設備の導入をどうするかを検討することを義務付ける、という制度です。1年後の27年4月からは、住宅を中心とする300m2未満(10m2超)の建築物を建てる建築主も対象になります。
ここで大事になってくるのが、「建築主」と「設計者や工務店などのつくり手側」とのコミュニケーションです。建築主は、省エネ住宅について人任せにせず、積極的に質問し、造り手側は、イニシャル・ランニングコスト、多様な自然エネルギー設備とその利用方法など、適切な情報をわかりやすく提示することが求められます。こうした検討に必要になってくるのが評価ツールです。
県では、「エネルギーパス」「QPex」「CASBEE戸建」「CASBEE新築」の4つの評価ツールを指定。
いずれも新エネルギー基準に対応したツールで、エネルギー消費量や光熱費、環境負荷など、同
制度における省エネ性能を客観的に、わかりやすく表示できるので、建築主にとっては非常に便利なツールだと言えるでしょう。
寒冷地の県内では、住宅の省エネ性能を高めるためには、イニシャルコストは上がりますが、躯体の断熱を強化して、冬場の暖房にかかるランニングコストを下げることが最も効果的です。これにより「灯油などの燃料費として県外に流出していたお金が、躯体の強化に係るお金として、県内の工務店に使われることになれば、長野県の経済の循環や活性化にもつながります。」(県温暖化対策課)
エネルギー性能に優れ、快適に暮らせる住宅が広がっていくことが、この制度の目指すところです。
建築主に、省エネ住宅の検討義務が課せられる長野県の新制度、「建築物環境エネルギー性能検討制度」と「建築物自然エネルギー導入検討制度」は、一律の省エネ住宅を普及させるためだけでなく、建築主や県内中小工務店に、住んでいる地域に適した、自分仕様の低炭素住宅を検討し、建ててもらうために定められた制度です。
建てる家がどれくらいの熱量を消費するかは、家の向き、ひさしや隣家の有無、給湯設備、さらに、気候の違いにより生じる冷暖房機器や照明などの電力消費量によって違ってきます。長野県の場合、暖房のために消費されるエネルギーの割合が非常に大きく、低炭素住宅にするためには、寒い冬に、どれだけ熱効率の良い暖房が実現できるかがポイントとなってきます。
具体的には、
●外壁や屋根などについて高い断熱性を確保した上で、日射熱を取り込み、暖房効率を上げるため、断熱
性・気密性に優れた断熱ペアガラスの樹脂サッシを取り付ける。
●太陽光発電や太陽熱温水器、地中熱空調システム、薪ストーブやペレットストーブといった自然エネル
ギー設備の導入。
といったことを検討する必要があります。
優遇税制の対象となる「認定低炭素住宅」にするためには、「改正省エネ基準よりも一次エネルギーの消費量を10%以上削減」しなければなりません。こうしたことにも対応できるよう、県は、建築主の省エネ性能の検討を義務付ける制度を始めると同時に、中小工務店対象の技術講習会を積極的に後押ししています。知識と技術を向上させ、建築主を、省エネ効果の高い住宅建設へと誘導することは、工務店にとってメリットがあるだけでなく、住む人の快適な暮らしの実現と、住宅建設による地域経済の活性化を促し、結果として、二酸化炭素の排出量を抑えることにも繋がっていくからです。
住宅の省エネ基準適合の義務化が予定されているのは、2020年以降ですが、中古住宅であっても、この基準に適合している物件ですと、税制上の優遇措置を受けられます。家族構成の変化や、高齢化に伴い、建てた家を手放す際も、不適合住宅では、非常に売りにくくなることが考えられますから、将来を見越して、今から省エネ基準をクリアした家づくりをしておくことをお薦めします。
1999年3月に改正された次世代省エネルギー基準に基づく日本の住宅断熱性能も、環境先進国ヨーロッパに比べると、省エネ性能の面ではかなり低いのが現状のようです。2000m2以上でなければ、省エネ基準を定めたうえで、届出る必要がなかったので、戸建住宅の省エネ化ははななか進みませんでした。
そこで、2012年5月に「住宅のネット・ゼロ・エネルギー化に向けた補助金制度」(ゼロ・エネ住宅の補助金制度)が施行され、同年12月には「認定低炭素住宅」の税制優遇もスタートしました。その基盤となっているのが、今回14年ぶりに改正された省エネ基準です。日本の温室効果ガスの排出削減のためには、排出量が1990年比で最も増大している住宅・建築物における取り組みを一層充実・強化する必要があったからです。
平成11年基準では、外皮と個別設備を別々に評価する基準になっていましたが、新たな省エネ基準では、住宅・建築物ともに外皮性能と国際的にも使われている一次エネルギー消費量を指標として、再生可能エネルギーを含めて建物全体の省エネルギー性能を評価することになりました。従来の省エネ基準は、極端な言い方をすれば、断熱材などの使用する材料の断熱性能で評価をしていました。しかし、使用するエネルギー量は、本来立地条件や使用する機器などによっても異なります。改正省エネ基準ではそういった点が見直されたのです。一方、省エネの基本となる断熱については、外皮性能として別に基準が設けられました。これまでのQ値(熱損失係数)からUA値(外皮平均熱還流率)に、指標が変更されたものの、実質的な断熱レベルは、ほとんどそのまま受け継いでいます。
(※一次エネルギー消費量…薪、石炭、石油・天然ガスなどの自然界にあるエネルギーの消費量を、熱量換算した値。ただし、電気については、電気そのものの熱量ではなく、発電所で投入する化石燃料の熱量を用いる。)
ゼロ・エネ住宅とは、「省エネの工夫で消費エネルギーを減らし、使うエネルギーは自ら作り出す住宅」です。つまり、『断熱性能や気密性能を向上させた家』で、『高効率な住宅設備』と『創エネ設備』を備えた家ということです。
国は、省エネ住宅をより高いレベルへと誘導するために、改正省エネ基準を軸とした「住宅のゼロ・エネルギー化推進事業」ZNHを行っていて、ゼロ・エネ住宅の補助金制度を設けています。経済産業省と国土交通省が合同で運営し、それぞれ異なる事業を推進しています。経済産業省が住宅の建築主・所有者を対象に、国土交通省が中小工務店を対象に、年間の一次エネルギー消費量がゼロになる住宅に補助金を交付します。
高断熱性能、高性能設備機器と制御機構等との組み合わせによるゼロエネシステムの導入により、年間の一次エネルギー消費量が正味(ネット)で概ねゼロとなる新築及び既築の住宅。
補助金:補助対象費用の1/2以内、一戸あたり350万円を補助限度額とし、施主に支給されます。
住宅の躯体・設備の省エネ性能の向上、再生可能エネルギーの活用等により、年間での一次エネルギー消費量がネットで概ねゼロになる新築及び既築の住宅。
補助金:補助対象費用の1/2以内、一戸あたり165万円を補助限度額とし、中小工務店(年間の新築住宅供給戸数が50戸未満)に支給されます。
国が目指す低炭素社会の実現に向けて、認定低炭素住宅制度の開始に続き今年10月の改正省エネ基準施行など、工程表の内容が段階的に実施されています。近い将来には、改正省エネ基準をベースに認定低炭素住宅や、ゼロ・エネルギー住宅、さらに低炭素化されたLCCM(ライフサイクルカーボンマイナス)住宅などが、日本のスタンダードな家になっていくでしょう。
建築設備は取り替えられますが、家の躯体は取り替えられません。自分の家のことですから、工務店に相談して、きちんと建てたいものです。これから家を建てる人は、2020年の義務化に向け、省エネ自然エネルギーについて、意識をもって家づくりを進めていく必要があります。少なくとも、今、建てようとしている家が、どの程度の省エネ性能を持っているかを知った上で、建てた方がよいでしょう。さらに意識があって、高度なゼロ・エネ住宅を求めたいという方には、国の助成金もありますので、積極的に取り組んでみてはいかがでしょうか。
ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス支援事業
の採択を受けた住宅
株式会社ヴァルト
ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス支援事業
の採択を受けた住宅
ホクシンハウス
ゼロ・エネルギー住宅/長期優良住宅
株式会社美喜工務店
冬は太陽の熱を取り入れ、夏は風の流れを取り入れ日陰を作ることで快適性を確保し、それを逃さない断熱性能を備えた、日本の風土に根ざした家づくりをめざした住宅。強制的に作る快適性は最小限に抑え、自然エネルギーをパッシブ(受動的)に取り入れ、快適・健康・高品質を兼ね備えた経済性の高い省エネ住宅。ドイツや北欧では、すでに高気密高断熱の高性能な省エネルギーの建物が実用化されている。木造に限らず鉄筋コンクリート造のパッシブハウスもある。
Life Cycle Carbon Minus(ライフサイクルカーボンマイナス)住宅の略。住宅の長い寿命の中で、建設時、運用時、廃棄時において、可能な限りCO2削減 に取り組み、かつ、太陽光発電などを利用した再生可能エネルギーを創りだすことによって、住宅建設時のCO2排出量も含め住宅の生涯でのCO2収支を、マイナスにする住宅として提案された。
IT(情報技術)を使って、家庭内のエネルギー消費を最適に制御する住宅のこと。ヒートポンプ技術を利用した電気給湯機や太陽光発電など、環境にやさしい再生可能エネルギーと家電をネットワークで結び、住まいのエネルギー管理を最適化することで、CO2排出の削減を実現する。このエネルギーマネジメントを行う機器が、HEMS(ホームエネルギーマネジメントシステム)で、ゼロ・エネルギー住宅やLCCM住宅の実現には欠かせない機器となっている。
「長期優良住宅普及促進法」で定められた認定を受けた住宅で、「100年住宅」とも呼ばれています。認定には「耐震性」「耐久性能」「省エネ」などいくつかの項目を満たす必要がある。高い省エネ基準をクリアしているが、CO2削減だけではなく、住宅を長期にわたり使用することにより、環境への負荷を低減することを目的としている。
2012(平成24)年に成立した「都市の低炭素化の促進に関する法律案」(エコまち法案)に盛り込まれている住宅。国が策定する基本方針を基に、省エネ性能が高い住宅などを地方自治体が認定する。複層ガラス、断熱材の厚み、軒ひさしの設置や、太陽光発電パネルの設置など、省エネ法の省エネ規準に対して、一次エネルギー消費量がマイナス10%以上となることや、低炭素化のための措置がとられていることなどが認定要件となっている。一定の条件を満たした市街地の新築住宅を対象に、住宅ローン減税控除額の引き上げや、登録免許税の引き下げなどを行う税制優遇がある。
長野県の住宅の8割は、木造住宅。そこで、県産木材を使い、県内の工務店で建ててもらうことで、長野県の経済を活性化させようと、「ふるさと信州・環の住まい」という信州型エコ住宅の助成金制度が設けられた。住宅ブランド化事業の一環として行っていて、その基準は、県独自のものである。原則として、県内の事業者が施行した住宅で、次世代省エネ基準を満たし、県産木材使用率が50%以上、などの条件に適応した「基本型」には50万円。さらに認定低炭素住宅だと30万加算され、80万円の助成金が受けられる。(県住宅課)
今回お話を伺ったのは
長野県建設部住宅課企画係 塚本 哲さん
長野県環境部温暖化対策課 長田 敏彦さん、宮澤 文夫さん
株式会社ヴァルト 小野 治さん