寒いととかく暖かさに敏感になります。寒さがきびしかった今年の冬、いつもより暖房に敏感になった方も多いのではないでしょうか。信州の冬をより快適に過ごすための総括の一項目として、暖房を再考してみませんか。
小野治さん(株式会社ヴァルト 代表取締役) × 佐々木洋介さん(長野ピーエス株式会社 営業担当)
ヴァルト/人と環境に優しい家づくりの長野市の住宅会社
ピーエス(株)/室内気候をお届けする冷暖房の専門企業
-信州の家では、冬をいかに快適にできるかがポイントになってくると思います。本誌でも折々暖房を特集してきましたが、今回はパネルヒーターを取り上げ、パネルヒーターの国産メーカーとして長い実績を持つ長野ピーエス(株)の佐々木さんと、ピーエスのパネルヒーターを標準装備しているヴァルトの小野社長に語っていただきます。
まず佐々木さんにパネルヒーターの説明を簡単にしていただくことから始めていただけますか。
佐々木 パネルヒーターというのは、パネルの中を温水を循環させ輻射熱で室内全体を暖める暖房器具のことですが、特に当社のHRシステムは低温水を循環させます。低温の暖房ですので触っても熱くなく、小さなお子さんやお年寄りの方にも安心です。熱源は電気、灯油、ガス等から自由に選べますが、当社の場合は部分的に使うのではなく、家全体に設置する全館暖房システムであり、24時間運転が基本で間欠運転はしないという前提です。ヴァルトさんの家は、信州の住宅メーカーには珍しく、当社のパネルヒーターを標準装備されていますが、その理由から伺えますか。
小野 私の生家は温泉水を利用した全館暖房でしたから、家の中に寒い所があるなんて考えられない環境でした。その後ヨーロッパで暮らした時も、暖房のスイッチを入れたり切ったりはあり得なかった。建築会社を始めたのも、あえて単純に言うと、長野の住宅の暖房事情を改善したかったからです。そこで、20年以上前に会社を創業した当初から、ヨーロッパで当たり前のパネルヒーターを標準装備しているわけです。この快適なシステムがどうしてもっと普及しないのかなと、私はちょっと不思議ですね。
佐々木 なるほど。実は私、北海道出身なんですけど、コタツって知りませんでした。北海道は歴史が浅いので合理的で良いものを導入する文化があり、今はパネルヒーターが最も普及しています。いずれにしろ暖房の間欠運転は考えられませんね。
小野 長野の寒さは北海道並みなのに、暖房に対する姿勢はだいぶ違う。コタツ、火鉢がファンヒーターに取って代わったという流れがあり、家全体を暖めるという発想への転換はそう簡単ではないようです。それから、24時間全館暖房だとランニングコストが膨大になるのではと心配する方も多いようです。
佐々木 ここでもう一度暖かさについて考えてみましょう。コタツとかファンヒーターというのは、私どもの分類では「採暖」なんです。文字通り、暖を採るという発想。これに対して「暖房」は房、つまり空間を暖めるわけで、私どもがお勧めしているのは暖房の方です。暖のある場所以外が寒くては生活導線が短くなり、暮らしの質が落ちてしまいますし、ヒートショックで亡くなる方もでてきてしまいます。 単純に暖房のコストのみでみると、採暖にしてなるべく小さく暮らすということになるのでしょうが、それでは冬を楽しめませんよね。
小野 私が行っている実験では、パネルの温水が35度で十分暖かいということが分かっています。低温であれば当然暖房費は低くなりますし、一度全体が暖まれば少ないエネルギーで快適を保ちます。ただし、家の断熱性能が高いのとセットでなければなりませんが。今の、暖かさの話しに関連しますが、ファンヒーターやエアコンと違うのは輻射熱だということですね。
-輻射熱というのはよく聞きますが、改めて何かと言われるとよく分かりません。説明をお願いします。
佐々木 暖かくしたい時、やみくもに室温を上げればいいかというと、そうではありません。エアコンの設定温度を20度にするということは、実際には40度とか50度の温風が出ているはずで、空気を暖めるというのは、それだけ効率が悪いんですね。輻射熱というのは放射熱ともいい、放射線が物体に吸収されることによって生じる熱のことです。人の体の温点に直接作用して暖かく感じるわけです。
小野 太陽が照っていて風が全くないとスキー場でも暖かく感じますよね。あれと同じです。焼き鳥を輻射熱の炭火でじっくり焼くと中まで火が通るのに、直火では表面だけ焦げるのも同じ。あと、風があると体感温度が下がりますが、あれは皮膚の表面にあるバリアみたいなのを壊してしまうから。つまり、輻射熱でほんのり暖かい、風のない室内環境が最もいいということです。
佐々木 熱には、高温から低温に移動する性質がありますから、一部を暖めると空気の対流が起き、暖かい空気が家の上の方に逃げてしまい天井扇をつけるようなことに…
小野 家の中に大きな温度差を作らないことで空気の対流が起きませんし、また結露の心配もなくなります。
佐々木 輻射熱は実は壁からも天井からも出ているので、例えば壁や天井が36度あったら、そこからの熱が人を暖めてくれることになります。逆に壁の温度が15度だと人からの放射が発生し熱が奪われてしまう。空気だけ高温にしても壁や天井の温度が低いままだとロスが大きいんです。
小野 壁や天井の温度の決め手になるのが家の断熱性能で、ヴァルトの家がこだわるのもそこです。ドイツ製の断熱性能に優れた窓を使うなど、パネルヒーターの性質にふさわしい家の構造にしています。エネルギーを消費することによる冷暖房を最小限にし、壁や天井からの放射熱などのように自然の作用を利用するのも重要です。
佐々木 やはりパネルヒーターは家との相性が大きくなってしまいますね。
小野 実は今の住宅ですと、ある程度の高断熱はすでに実現しています。断熱性能を示す「Q値」だって一般の方に知られているくらいですしね。でも、実際に暖房費の実験をしてみると、エネルギー消費量の多寡を決めるのはQ値だけではないんですよ。蓄熱性能が関係しているはずだと思い、ヴァルトの家では断熱性能は同程度だけれども、蓄熱性能の高い木質の断熱材に変えています。これについて語ると紙幅がとうてい足りないからやめておきますが…。
佐々木 それぞれ家族の生活スタイルがあり、それにはどういう暖房がふさわしいかという風に、家の設計を、設備面も含めて考える必要があると思います。
設備のメーカーがお客さんと直接話す機会が少ないのが残念なんですが、いつでもご相談に応じますので、お気軽に連絡いただければ嬉しいですね。
詳細なお話しをありがとうございました。
取材協力/株式会社ヴァルト
長野ピ−エス株式会社
例えば「今年の冬の寒さには参った。床暖房は快適!と聞くから来年の冬に備えてリフォームしたい」「床暖房がいいらしいけど、この家に設置できるのかなあ。光熱費は一体どれくらいなのか」と思ったとします。さて、どこに相談に行きますか。
ありそうでなかったショールームをオープンしたのは(株)ミスヤトラストの武内優社長です。床暖房パネルを製造するメーカー「美須弥工業」で開発と製造に携わって25年。改善を重ね「性能は向上しているのに、費用は一時の半分くらいで設置可能になっています。この快適さをお客さまにぜひ体感していただきたい」と、一般向けのショールームをオープンしました。
床暖房の利点は、輻射熱で身体の芯から暖まり、部屋全体が暖まるので快適な暮らしができること。空気を汚さないこと。頭寒足熱で健康的なこと。場所を取らないのでスペースを有効利用できることなどさまざま。ただし「留守の間スイッチを切る人がいますが、暖房の効率を良くするためには、切らない方が良いです」とは武内社長からのアドバイス。
美須弥の床暖房の特徴は、温水式でCO2排出量が相対的に少ないなどの他、「敷設率8割近く」が武内社長の大きなこだわりです。窓際まで敷設することで冷気が入りにくく結露の心配もなくなります。また、放熱面積が増えることで温水の温度を下げることができ、全体のエネルギー消費量を減らし維持費を軽減することができるのです。放熱材にアルミ板を使っているのもこだわり。温水の熱を効率良く伝えるためです。
床暖房は見えない部分に設置するだけに、信用できる製品と確実な工事が大切になってきます。その点、開発と製造を行うメーカーが、納得ゆくまで説明にあたり、必要であれば工事も請け負ってくれるのは安心です。発明好きの武内社長が手がけたその他のアイデア製品も展示され、ぶらっと立ち寄るのにも楽しいショールームです。
取材協力/株式会社ミスヤトラスト
長野 Show Office/長野市北長池(木工団地内)フリーダイヤル 0120-338-565