夢や期待だけでマイホームが実現できればよいのですが、残念ながらそうではありません。
建設業者や売主が倒産したら…。入居後に雨漏りがしたら…。 考えたくない事態から目をそらして、
結果的に大事になる前に最新の知識のワクチンで予防しておくことが大切です。
建設や不動産販売などの事業者に義務付ける瑕疵補償制度ですが、
消費者として知っておくべきことも多くありますので、
10月1日以降に引渡しとなる新築物件から適用になる新しい制度についてお伝えしましょう。
平成12年4月施行の品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)に基づいて、戸建て住宅やマンションの売主および建設工事請負人に対して10年間の瑕疵担保責任を負うことが義務付けられていましたが、平成17年11月の構造計算書偽造問題をきっかけに、後に問題が発生しても経営の行き詰まりなどで売主や建設業者に補償能力が無い場合には、その法律だけでは消費者を救済できないことがわかりました。
そこでこれらの事業者の消費者に対する補償能力を、建物完成後10年間に渡り維持させることを法律で新たに義務付けることになりました。(資力確保の義務と言います。)
この法律のことを『住宅瑕疵担保履行法』と呼び、この資力確保の一つの方法が「瑕疵保険」によるものです。戸建て住宅・集合住宅とか、注文・分譲・賃貸といった形式には関係なく、引渡しの時期が2009年10月1日以降になる、工事完了後一年以内の「新築未入居の住宅」に適用されます。
事業者が瑕疵(欠陥)を補修する能力・資金を確保しておくことです。新法で定められた方法には二通りあります。
「供託」
業者の実績に応じて定められた金額をあらかじめ供託所(法務局)に預けておく方法で、建設業者や売主等が自らの資力で瑕疵担保責任に対応するものです。必要な補修費用を取り崩して使うことになります。
「瑕疵保険」
「住宅瑕疵担保責任保険」というこの制度専用のものです。個々の住宅について建設業者や売主が、国から指定を受けた5つの保険法人のいずれかと事前に保険契約を結び、引渡し後の瑕疵発生により損害が生じた場合の補修費用を保険金でまかなうものです。
「供託」の場合は、事業者の過去10年間の供給戸数に応じて、供託金額が2000万円から120億円を上限とする範囲において算出されます。どちらかといえば資本力の大きな大手住宅会社や不動産会社に向いている方法です。
一方の「瑕疵保険」の場合、保険料は5つの保険法人によっていくらかの差がありますが、床面積120を例にとると、2回の現場検査料と合わせておよそ10万円ほどになります。
保険料は10年分一括前払いとなります。この保険料は事業者が負担すべきものと考えられますが、国交省は工事代金に含めても良いと回答しています。経費の内訳等で確認しておくことも必要でしょう。また保険契約は必ず工事着手前に行われなければなりません。一般的な建設会社や工務店などが利用しやすい方法ですが、保険が掛けられない場合には供託金を積むことになります。
新法の適用を受けるのは、新築物件を請け負う建設業者や売り主となる不動産業者(宅地建物取引業者)で、それぞれ建設業法・宅地建物取引業法に基づく登録免許業者です。
建設業法に抵触しない軽微な工事(延べ面積150未満の工事、1500万円未満の元請け一式工事、500万円未満の下請け工事)のみを常に行なっている業者は新法の適用を受けるものではありません。但し、瑕疵保険の対象となる部位の工事を行う業者の中に一社でも登録免許業者があれば、その住宅全体としては資力確保の義務を負うべき物件となりますので、個人業の大工さんも含めて十分な注意が必要なところです。
つまり「登録看板を掲げる者は、それなりの責任能力を示す必要がある」ということです。
保険金額の上限を2000万円以上とするように定められています。補修費用から免責金額の10万円を差し引いた残りの80%の金額の他に、瑕疵状況の調査費用や住宅取得者の仮住居・移転費用なども保険法人各社の規定に従って費用として支払われます。補修費用の不足分は事業者の負担となりますが、引渡し後に事業者が倒産した場合には100%が保険で支払われます。
これらの保険に関する手続きは、事業者が保険法人に対して行います。しかし、完成引渡し後において、瑕疵が見つかった時点で事業者が倒産している場合や、事業者の補償義務が長期に渡り不履行である場合には、住宅取得者が保険法人に直接申し立て請求することになりますので覚えておきましょう。(供託の場合は法務局)
瑕疵が発生した場合は速やかに事業者に報告・相談をしましょう。いつまでも放っておいて被害が拡大した場合には保険金の支払いにも問題が生じる場合もあります。
基礎・軸組など構造上の主要な部分と、屋根・外壁・外壁開口部・ベランダ防水床など雨水の侵入を防止すべき部分に限定されています。これらの部分を担当する業者、並びにこれらの部分に穴をあける可能性のある業者(電気工事、給排水設備工事など)が重責を負うものと考えられます。
不具合のすべてが補償義務の対象となるわけではありません。対象は「構造体」と「雨漏り」の場合だけです。結露、床鳴り、建具の変形、内壁の破損、クロスの剥がれ、部材の変色や伸収縮、給排水設備からの水漏れ、電気・ガス器具などの不具合、シロアリ食害などは対象外となります。
また、地盤そのものは補償の対象ではありません。地盤沈下によって基礎にひび割れが生じた場合や、住宅の構造体に損傷が生じた場合に初めて補償の対象となります。
地震、津波、台風や洪水、火山の噴火、火災や落雷などの理由によるもの、また、土地の地盤沈下・隆起・土砂崩れ、団地などの土地造成工事の欠陥などは補償の対象ではありません。
さらに、建築基準法違反、設計上の重大な過失、手抜き工事、保険法人の設計施工基準に満たないものなど、これら「重過失」「故意」「規約違反」と判断される場合は、事業者が倒産している場合を除き、支払いの対象とはなりません。
設計も施工も建築基準法や保険法人の設計施工基準、並びに詳細マニュアルの上に立つレベルのものでなければなりません。コストダウンを優先しても基準に至らないものは補償の対象にはなりませんので、これからの住宅の資産価値というものについて、この機会にもう一度考えてみましょう。
保険契約には地盤調査の実施が前提となります。設計段階での地盤調査の結果として、地盤の耐力に問題のある場合は地盤改良工事などの対策が必要になります。これらの調査結果や判断経過は重要事項の説明義務のひとつとして、消費者に説明されなければなりません。
また事業者が契約した保険の内容も、消費者に対する重要事項の説明義務のひとつです。建物保証書(呼称は法人により異なります)は、事業者と住宅取得者の二者に発行されます。
保険法人による現場検査は、戸建て木造住宅の場合は基礎配筋工事の完了時と屋根工事・防水工事の完了時の2回行なわれます。これらのことをしっかり認識しておきましょう。
その他にも消費者が心得ておくべきことには、以下のことがあげられます。
工事代金の支払い方法などと共に、不明な点や心配事は契約前に確認して明らかにしておきましょう。瑕疵担保履行法は完成した建物の引渡し後の保証・補償のあり方を定めたものです。工事中に業者が倒産した場合に備えるためには、「住宅完成保証制度」という別の制度を利用して対応する必要があります。
建物は完成し引き渡されて初めて建築主または購入者の所有となります、それまでは消費者側に所有権はありませんので、それぞれの手続きには公的な裏付けが必要です。
また最近ときどき耳にすることですが、木材など自然素材の乾燥収縮やひび割れに関するトラブルも、構造耐力上の問題とならなければ瑕疵には当たらないと考えられます。しかし集成部材も含めて、木材の本来の性質について事前に十分な説明が必要なのはもちろんですが、消費者の皆さんにも冷静に対応していただきたいことのひとつです。
今回の新法は、どちらかと言えば事業者が倒産などで補償能力を失ってしまった場合において、消費者の皆さんが生活のすべてを失うような最悪の事態を防ぐことを目的とする意味合いが濃いようです。実際の運用の中で、保険法人各社の設計施工基準や詳細マニュアルも段階的に整備されてゆくものと思われます。事業者側も保険制度を当てにすることなく、それぞれの資質の向上や過不足の無い忠実かつ誠実な施工に努め、また新法の適用を受けない小規模事業者も任意の瑕疵保険などで資力の確保を図るなど、消費者からの信頼を得ることで、広く社会に貢献してゆく姿勢が大切ではないでしょうか。
なるほど、瑕疵保険などが義務付けられても消費者保護の問題がすべて解決されるわけではありません。業者任せを脱却して、消費者の皆さんも知識を蓄えるチャンスと捉えてみるのもよいのではないでしょうか。
「瑕疵」
かし
引き渡された住宅が住宅として通常有すべき品質や性能を欠いていること、または契約上定められた品質や性能を有していないこと。
「瑕疵担保責任」
かしたんぽせきにん
新築住宅に瑕疵があった場合に、その瑕疵の補修や損害部分の修復賠償をしなければならない責任のこと。
「新築未入居の住宅」
しんちくみにゅうきょのじゅうたく
建設工事完了の日から一年以内の住宅で、まだ人が居住・生活したことのないもの。併用住宅の住宅部分についても同じこと。
「補償」
ほしょう
損害を償うこと
「住宅完成保証制度」
じゅうたくかんせいほしょうせいど
建設業者の倒産などにより工事が中断した場合に、工事を引き継ぐために発生する経費や前払い工事代金の損失を規定の範囲で補うもの。着工前に保険法人と建設業者の間で契約。業者の意思または建築主の希望に基づく。
「指定保険法人」
していほけんほうじん
今回の制度のために国から認可を受けた保険法人で5社のみ
保険法人が倒産の場合は国交省が引継ぎ先の保険法人を指定する。
(株)住宅あんしん保証
http://www.j-anshin.co.jp/
(財)住宅保証機構
http://www.how.or.jp/
(株)日本住宅保証検査機構
http://www.jio-kensa.co.jp/
(株)ハウスジーメン
http://www.house-gmen.com/
ハウスプラス住宅保証(株)
http://houseplus.co.jp/
取材協力
建築モード代表 一級建築士 吉田 聡さん
佐久市瀬戸888-4 TEL0267-63-3853