シックハウス症候群と闘う  土地家屋調査士。

事務所写真
土地家屋調査士でもあり、現在は無農薬無添加ジャムの製造販売をされている 宮下和美さんは、実はシックハウス症候群と同居中というか今も戦っています。 ご自身が体験されたシックハウスの実態とはどんなものなのか、 また、シックハウスを改善するために手探りで行き着いた生活とは…?  なかなかこれといった処方箋のないシックハウス症候群ですが、 宮下さん流の解決のヒントを教えていただきました。


自然のなかに建てた新築事務所でシックハウスに

ウレタン写真

標高約850mの高原のなか、瀟洒な別荘が並ぶ一角に、宮下さんの旧オフィスがあります。太い丸太、広い吹き抜け、ウッディな内装は、そこにいるだけで気持ちが爽やかになります。

「2階のリビングは、企業の研修に利用していただいたりして、好評でした。ここに泊まり込んで1泊し、徹底的に話をすると、不思議に新しい発想が生まれるんです。人間の考えることってやはり環境に影響されるものなんですね」。

宮下さんは数年前までここで何人ものスタッフを抱えて忙しく飛び回る土地家屋調査士として仕事をされていました。この事務所の建物も、取引のある企業や仲間のみなさんに少しでも役立ててもらえれば、という思いで建てたもので、建築にも自分自らが関わりました。材料は自ら情報を集め、自分にできるところは工事にも加わり、残りは分離発注しました。

自力でつくって分厚くした半地下の基礎の部分を利用して、ここを事務所にしました。太い丸太をむき出しにあしらって、この木質部の塗装も宮下さん自らが手作業で仕上げました。

でも、これがいけなかった…。事務所を建てて5年ぐらいで、あれだけ好きだったお酒が飲めなくなってきました。ビールを一口飲むと二日酔いがひどく、3日ぐらいは気分が悪いのです。小さい頃からの持病とはいえ、頭痛もひどくなりました。いったい何がいけないのか悩んでいたとき、友人が測定器で測ったところ、事務所にホルムアルデヒドの異常数値が出ていたのです。しかも、この半地下の事務所部分にだけ。  「床の塗装のウレタンと丸太にしみ込ませた防腐剤がダメだったんです。いわゆるシックハウス症候群」。

宮下さん本人にとって、この体調不良は大変なことでしたが、医者に行くと、お酒を飲んで具合がわるいなら飲まないでいたら、という指示しかもらえません。つまり、これといった治療法がないのがシックハウス症候群だったのです。


事務所を倉庫にしてまで

原因が丸太の防腐剤だとわかった宮下さんは、まず、シックハウスの原因となっている建物の補修に取り組みました。丸太を厳重に密封し、ダクトを通して換気システムを取り付けました。室内の空気が壁の方に流れていくような気圧差を作る、そんな工夫もしてみました。

しかし、それでも体調が良くなったわけではないのです。やはり、ライフスタイル全体を見直すべき、と考えた宮下さんは、この事務所を閉じ、実家のある旧武石村を拠点に無農薬農業を始めたのです。

「ここは、半地下で夏は涼しく、冬は暖かいので今はジャムの倉庫にしています」と宮下さん。半分手作業で自分が建てた家だけに文句を言っていくところもない…。それがすべて自分へと跳ね返り、苦しい自問自答のなかからひとつの道が見えてきました。


ホルムアルデヒドとアセトアルデヒドの不思議な関係

宮下さんの症状は、気分が悪く、頭が痛く、食欲がないというもので、ほとんど二日酔いと同じでした。女性でいったら「つわり」みたいなものでしょうか。その状態の時に、DIYショップや家具屋さんに行ってみたら、宮下さんの症状はさらにひどい状態になりました。

これといった治療方法もなかった宮下さんは、自分の状態と反応をいろいろ観察し、勉強もしながら、ひとつの結論に行き着きます。  「お酒のなかのアセトアルデヒドとホルムアルデヒドはとても似ているんですよ。シックハウスっていうのは、それらを分解する肝臓がホルムアルデヒドで充満しちゃっているからオーバーフローしちゃって、アセトアルデヒドの分解能力が低下してる状態。肝臓が弱っているのでなく、いっぱいになっていて勘弁してくれ、といっている状態なんです」。

そこで宮下さんの到達した結論は、「お腹が減るまで食べない」ということ。

吐き気がする、というのは「食べないでくれ」という体のサインなんだ、と受け止め、お腹がすくまでは絶対に食べない。それだけ。

「不健康なんじゃないの。健康で敏感だからこそ、シックハウスになるの。だから前向きに考えたら、とっても健康体ということ」。この逆転の発想から、新しい人生が始まっていきます。


ブルーベリーとイチゴ畑の写真


無農薬有機栽培のフルーツと水飴でジャムづくり

リフォーム・住宅再生

とにかく宮下さんにとって、自分の体の反応がいちばんのバロメータ。シックハウスを体験したことで、自然に「食」へと関心が移っていき、それが次第に「これからは食の時代だ」という確信に変わって行きました。

お父さんがやっていたジャムづくりの仕事を引き継いで、加工をやり始めたときも体が砂糖に敏感に反応しました。砂糖でジャムを作って試食したらやはり体調が悪いのです。

「生物科学を片っ端から勉強しました。砂糖に体温と水を加えるとアルコールになっちゃう。だから砂糖を摂ると私は具合がわるくなる。でも、これを水飴にしたら全然違う。水飴が消化するのには高温度と時間が必要で体内では、その環境が整わないので、食物が体内にいる時間では消化されず、結果として、吸収されないまま排出されてしまいます。だから具合が悪くならない」。

シックハウスの天敵は酒と砂糖。自分がいやなものをお客様に出す訳にはいかない。砂糖を止めて、自然の中で育てたフルーツと水飴だけでジャムを作ることに決め、おいしいジャム作りに挑みました。

「水飴を使ったら私でも全然具合が悪くならないんです。つまり、体にやさしいということです。シックハウスに悩んでいる方でも大丈夫ですよ」。

とにかく、宮下さん、自分の体が「ノー」というものは絶対に使いません。化学肥料、農薬のたぐいはもちろん、砂糖も一切使わない。いちごもブルーベリーもすべて手作りで、生で食べて最高の状態の時に2時間以内に加工してしまうというから驚きです。

ジャムというよりコンフィチュール。このままでデザートになりそうな、やさしくて生の果実のおいしさが香る逸品です。

「自分は病気だと思っていません。他人よりも健康だったから、より敏感に感じられるだけのこと。いまは、自分のアンテナをプラスに活かして安全な食づくりをしていこうと思っています」。  畑のむこうの里山に、羊を放牧して下草をとり、やがて畑にしていく計画も着々と進んでいます。信じられる食品、信じられる環境づくり、宮下さんの人生が大きく動き出しています。 無農薬水田写真


取材協力

土地家屋調査士 宮下和美さん
美ヶ原ベリー園(株)上田市武石村上本入 
TEL.0268-42-5620  http://www.hnk.jp/jam/